NEWS:テンペラ画を学ぶ その1

 

 

チェンニーノ・ディ・アンドレア・チェンニーニ (Cennino di Andrea Cennini / 1370〜1427  )  著の《芸術の書 Il libro dell’arte》は、イタリア語で書かれた最初の絵画技法論で、テンペラ画やフレスコ画などの様々な技法を細やかに記した手引書です。

 

1991年に岩波書店から刊行されたこの本の翻訳書 《 チェンニーノ・チェンニーニ 絵画術の書 》 辻 茂  編訳 / 石原靖夫、望月一史 訳  をひもときながら、私は今春からフラ・アンジェリコ( Fra’ Angelico / Beato Angelico / ベアート・アンジェリコ  1390-1395〜 1455 )が  1424〜1430年 頃に描いた、ミニアチュール(細密画)の模写を始めました。(画像はトレース部分。)

 

このフラ・アンジェリコのミニアチュールは、彼が拠点にしたフィレンツェのドメニコ派修道院のサン・マルコ美術館 ( Museo di San Marco )にある作品で、羊皮紙に描かれた聖歌集の一部の「受胎告知」のシーンです。


テンペラ画教室を主宰され《チェンニーノ・チェンニーニ 絵画術の書》の訳者でもいらっしゃる先生のご提案で、原寸に近いサイズの部分を描き始めました。

初めてサン・マルコ美術館を訪れた時の感激や緊張感がよみがえります。

 

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フラ・アンジェリコのミニアチュールを、羊皮紙にテンペラで模写するのは初めての試みで、私がこれまで30年間制作してきた日本画の技術とも類似する点もありますが、難易度の高い技法である事に違いありません。先生のご指導のもと、筆を走らせることなく仕上げていきたいものです。


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私事ですが、この模写の制作開始後の 2016年の5月に、ローマに取材旅行する機会がありました。その際に、パンテオン裏手にある、サンタ・マリア・ソプラ・ミネルヴァ教会(Basilica di Santa Maria sopra Minerva )を訪れ、ここに埋葬されているフラ・アンジェリコ に、畏れながらこの度の制作の報告をしました。

 

 

 

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以前、私はローマに短期滞在していた経験があり、この教会の広場に面する画材店に通っていたこともあって、サンタ・マリア・ソプラ・ミネルヴァ教会 は度々訪れていました。

天使のような修道士だったと伝えられる フラ・アンジェリコは、存命中から ” 福者アンジェリコ=ベアート・アンジェリコ” とも呼ばれていましたので、墓前に立つたびに、なんだか自分の俗臭を感じ震えてしまいます。

 

 

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教会前の広場には、ジャン・ロレンツォ・ベルニーニ( Gian Lorenzo Bernini   1598〜1680 )のデザインによる可愛らしい象の彫像が建っていて、観光客のアイドル的存在です。

古のこの地には、エジプト神話の女神をまつるイシス神殿などがあり、この地で発掘されたエジプト製の小さなオベリスクを象が背負って土台になっています。この彫像を作らせたのは、ベルニーニのパトロンで、ローマの名家 キージ家 出身のローマ教皇 アレクサンデル7世 (  Alexander VII   1599〜1667  )。

 

サンタ・マリア・ソプラ・ミネルヴァ教会は美術館のような教会で、お祈りをしながらルネサンス期の作品群と過ごせる空間でもあります。


例えば、右翼廊のカラファ礼拝堂には、フィリッピーノ・リッピ (  Filippino Lippi  ※フィリッポ・リッピの息子   1457〜1504 )の描いた、父親譲りの美しい色調の 受胎告知 と 聖母被昇天 のフレスコ画 (画像下)があります。この礼拝堂は、ナポリ出身でドメニコ会の保護者であったカラファ枢機卿の命により建てられました。

 

主祭壇にはミケランジェロ( Michelangelo di Lodovico Buonarroti Simoni  1475〜1564  )作 の「あがないの主イエス・キリスト」像、マッダレーニ・カピフェロ礼拝堂には、ベノッツォ・ゴッツォリ( Benozzo Gozzoli  1421〜1497 )作の母子像も。

 

 

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内陣の左の礼拝堂にフラ・アンジェリコは埋葬されています。
一生涯、修道士として信心深く禁欲的な生活を過ごしたとされる彼は、1982年に教皇のヨハネ・パウロ2世により列福され、本物の福者=Beato になりました。

 

フラ・アンジェリコの作品模写を始め感じることは、彼の言葉として伝わる  『キリストに関する絵画を描くのであれば、常にキリストとともに過ごさなければならない』という姿勢が強く伝わってくることです。
祈りと共にある筆致、マリア様や天使の輪郭線はすっきりと迷いなく、10mmほどの小さな顔の陰影は、動物の毛 数本分の細く柔かい筆線で納得するまで描かれています。

また、聖歌を装飾する植物文様ですが、点描の数が規則的でロザリオの祈りを想わせ、私は はっとしました。(もしかしたら、聖歌を唱えていらしたかもしれませんね。)

 

 

この受胎告知の模写は、まだ制作が始まったばかりですので、こちらのダイアリーに過程を書いていこうと思いますが、制作が失敗しないことをお祈りください。

 

 

望月麻里