NEWS:テンペラ画を学ぶ その2

 

ダイアリー・テンペラを学ぶ 」の続きです。。。

 

チェンニーノ・チェンニーニ《絵画術の書》の訳者でもいらっしゃるI先生の丁寧なご指導のもと、羊皮紙に描くテンペラ技法を学び始めています。
ベアート・アンジェリコ(フラ・アンジェリコ)の作品トレース、羊皮紙の下処理、羊皮紙の張り込み、羊皮紙への転写、金装画の盛り上げ、箔押しに入りました。
箔押しが想像以上に手間がかかりますが、金箔の輝きを最大限に守る技法なのだとわかります。

 

 

羊皮紙に描くテンペラ技法を学び始めるきっかけ、少し書いておこうと思います。。。

 

私の作品には、「短詩」というシリーズの植物画の小品や、イタリアへの憶いをイメージした作品で羊皮紙風に描くものがあります。天然石の岩絵の具の瑪瑙(めのう)色などを用いた淡いベージュの背景が好きで、花の絵にあわせます。

また、原画を担当した 日本Hallmark のレターシリーズ  マインドフルスケッチシリーズ の花の絵柄のグレイスフルフラワー も、商品開発の際に、絵の背景に古い紙や羊皮紙風の色彩とデザインをお願いしました。
銀座伊東屋などで入手可能な「羊皮紙」という名前の洋紙も素描で愛用しています。

 

 

画:望月麻里 2015年 雲肌麻紙、膠、墨、イカ墨、胡粉、岩絵の具

「メロディ」画:望月麻里 2015年 ・”Melody” Mari Mochizuki 2015 / 雲肌麻紙、膠、墨、胡粉、岩絵の具。 欧州のバラの原種 ロサ・カニナをイメージしてスケッチしていた時、春風にのって聴こえてきた音楽。そのひとときを描いた。個人蔵

 

マインドフル スケッチ・グレイスフル フラワー (日本ホールマーク)2015年 Mindful Sketch・Graceful Flower / Hallmark / illustrated by Mari Mochizuki

マインドフル スケッチ・グレイスフル フラワー (日本ホールマーク)2015年
Mindful Sketch・Graceful Flower / Hallmark / illustrated by Mari Mochizuki

 

 

今まで、羊皮紙に描きたい気持ちがあっても、技法をゼロから学ぶチャンスがありませんでした。
大学では日本画専攻し、フレスコ画の単位も取得。どちらの技法も習得するのに精一杯で、描き始めて四半世紀過ぎました。

そして今春、 I先生によるチェンニーニの技法で羊皮紙に描く教室が新設されることを知り、スーッと導かれるように伺いました。画家として、洋紙、和紙、絹、綿、麻、板、漆喰という支持体に加えて、もし、羊皮紙にも描けるようになったなら、表現の幅も広がるので楽しみです。

 

 

 

 

制作過程の個人的な感想ですが、実際にベアート・アンジェリコの絵の模写を始めてみると、彼のデッサンの新しさ(1420-1430年代)を感じます。

 

彼は細く柔らかい動物の毛先で(おそらく猫の柔らかい胸の毛2〜3本くらいの毛先で)、実に濃密に人物の表情を描いています。線がキリッと決まっているところもあり、デッサンを積み重ねた印象を受けます。

聖母マリアや天使ガブリエルのおでこから鼻にかけてのラインや目の位置や手の表情など、古代ギリシャや古代ローマの彫刻を意識して描かれていて、当時、古典の知識を具体的に描けることは最先端の教養を示し、”ルネサンス”の先駆け的な表現だったでしょう・・・。 プラクシテレスのヘルメス像 や パルテノンの首像ラボルト などの輪郭を思い出させる端正な顔立ちです。
ヘルメスの目鼻のバランスは大変難しく、解剖学的な知識で頭蓋骨や眼球の位置を意識した時に、はじめて私も描けるようになったのを記憶しています。描けるようになると、像を創った彫刻家や当時の感性を読みとれて楽しかったです!

 

羊皮紙は和紙と違って繊維質ではないので、弾力があり、描く感触が全く違うも興味深いです。加工にもタフな印象。

動物の皮なのでカビなどの傷みが生じやすいようですが、日本画を鎌倉という湿気の多い土地で制作してきた経験を、テンペラ画にも活かしてみようと思っています。

 

 

 

つづく。

望月麻里 mochizukimari.com